case study

キサンタンガムのエンドトキシン対策

低エンドトキシン化の技術的課題と解決法

Jun 05, 2026

キサンタンガムは、食品や医薬品、化粧品、バイオ分野で幅広く利用されている微生物由来の高分子多糖です。一方で、製造工程に由来するエンドトキシン(LPS)の残留は、用途によっては安全性や機能性に影響を及ぼす重要な課題となります。

 

本記事では、キサンタンガムの基礎特性からエンドトキシンの影響、低エンドトキシン化の必要性と各種除去方法、さらにナガセケムテックスが提供する低エンドトキシンキサンタンガムについて詳しく解説します。

キサンタンガム粉末

キサンタンガムとは

主鎖はグルコースから構成され、側鎖としてマンノースやグルクロン酸を有する独特な構造

キサンタンガムは、Xanthomonas campestris という微生物の発酵によって生産される多糖類を精製した高分子材料です。主鎖はグルコースから構成され、側鎖としてマンノースやグルクロン酸を有する独特な構造を持ち、水に溶解すると少量でも高い粘性を示します。

温度やpH、塩分の影響を受けにくく、せん断によって流動性が変化する特性を持つ

また、温度やpH、塩分の影響を受けにくく、せん断によって流動性が変化する特性を持つことから、増粘剤、安定剤として食品、医薬品、化粧品など幅広い分野で利用されています。近年では、物性制御のしやすさや加工適性の高さから、医薬品製剤、バイオ材料、細胞培養や再生医療分野での応用可能性にも注目が集まっています。 

キサンタンガムに含まれるエンドトキシンとは

キサンタンガムに含まれるエンドトキシンとは、製造に用いられるグラム陰性細菌 Xanthomonas campestris に由来するリポ多糖(LPS)を指します。キサンタンガムは同菌の発酵によって生産される微生物多糖であり、発酵・精製工程において細菌由来のエンドトキシンが製品中に残留する可能性があります。

 

通常は加熱処理等により菌体は除去されますが、エンドトキシンは耐熱性・化学安定性が高く、完全除去は困難です。

エンドトキシンとは

実際、精製度の低いキサンタンガムでは高濃度のエンドトキシンが検出された例が報告されていますが、キサンタンガムの電荷状態や、特徴的な粘度特性から、イオン交換樹脂や限外ろ過等によるエンドトキシン除去も実用的ではありません。

 

また天然由来材料であることから、保管や流通過程での再汚染によってエンドトキシンが増加するリスクもあります。このため、キサンタンガム中のエンドトキシンは用途に応じて適切な管理が求められる重要な不純物といえます。

キサンタンガムの利用分野とエンドトキシンの影響

キサンタンガムは、その高い増粘性、安定性、加工適性から、食品、医薬品、化粧品、バイオテクノロジーなど極めて幅広い分野で利用されています。

 

一方で、キサンタンガムはグラム陰性細菌の発酵によって生産される微生物由来の多糖であるため、製造工程でエンドトキシンがコンタミしてしまう可能性があります。このエンドトキシンは用途によっては問題とならない場合もありますが、使用環境や人体への曝露経路によっては、安全性や機能性、さらには製品の信頼性に影響を及ぼす要因となります。

 

例えば、以下のような分野ではエンドトキシンに関する懸念があります。

分野 用途 懸念点
食品・健康食品 増粘安定剤(E415)、増粘剤、水溶性食物繊維 代謝性エンドトキシン血症(Metabolic Endotoxemia)および低強度の慢性炎症を引き起こす可能性が報告されている。高品質な製造プロセスにおいて、LPSは衛生管理と工程を評価する重要なバイオマーカーとしても検討されている。
化粧品・外用剤 ジェル、乳液、創傷被覆材 TLR4介在性の炎症カスケードを引き起こすリスクがある。特にバリア機能が低下した皮膚や粘膜において、皮膚刺激、紅斑、感作(アレルギー反応)の原因となる可能性がある。
医薬品・バイオ医薬品 注射剤、ワクチン安定化剤、眼科用製剤 極微量のLPSであっても発熱性反応を誘発する可能性がある。患者の安全性確保と規制遵守のため、各国薬局方(JP、USP、EP等)が定める許容限度を厳格に遵守することが必要となる。
再生医療・細胞培養 足場材料(スキャフォールド)、バイオインク、培地添加剤、凍結保存液 細胞の恒常性を乱す「隠れた変数」として作用することが報告されている。意図しない炎症性サイトカインの放出、幹細胞の多能性維持の阻害を招き、実験結果や製造プロセスの再現性を著しく損なう恐れがある。

 

特に、ライフサイエンスの分野では低エンドトキシンキサンタンガムを利用する必要があります。

低エンドトキシンキサンタンガムとは

低エンドトキシンキサンタンガムとは、製造工程および品質管理を通じて、キサンタンガム中に含まれるエンドトキシンを極力低減・管理した原料を指します。特に人体に近い環境で使用される分野では、エンドトキシンが発熱や炎症反応の原因となるため、通常品とは区別して扱われます。

 

エンドトキシンに関する考え方は、用途分野によって以下のように異なります。

分野規定・考え方
医薬品 バイオ医薬品・各国薬局方/規制の考え方に基づき、最終製品ごとにエンドトキシン許容限度が設定される。
・投与経路別の許容量により、原料側にも低EU/gが要求され得る
・医療/再生医療/細胞関連では、低エンドトキシン化が安全性/データ信頼性/規制対応に直結し、エンドトキシン管理グレードが用いられる。
・用途に応じた低エンドトキシングレード階層があり、管理レンジが提示される。
医療機器・FDAの枠組みでは、デバイスの接触部位に応じて抽出液の限度(EU/mL)またはデバイス当たり限度(EU/device)が設定される。
・キサンタンガムを医療機器材料として用いる場合、最終製品の抽出条件/使用形態から原料EU/gを逆算して目標設定する必要がある。

このように低エンドトキシンキサンタンガムは、単に不純物が少ない原料ではなく、用途に応じたエンドトキシン管理と、製造工程・試験・品質保証に基づく裏付けを備えた高付加価値原料です。

特に医薬品や再生医療、細胞培養分野では、安全性と信頼性を支える重要な要素として位置づけられています。

キサンタンガムを低エンドトキシン化する方法

キサンタンガムは微生物発酵により製造される高分子多糖であり、一般的な製造工程では培養後に菌体を除去した後に、粗多糖を回収・乾燥します。しかし、この従来工程では菌体そのものは除去できても、耐熱性・化学安定性の高いエンドトキシン(LPS)は最終製品中に残留しやすいという問題があります。

実際、遠心・ろ過、フェノール抽出などを繰り返しても、最終製品のエンドトキシン値が規格を満たさない例が報告されています。そのため、医薬・バイオ用途では、通常の多糖回収プロセスに加えてエンドトキシン専用の除去工程を追加する必要があります。

限外ろ過(UF)法

限外ろ過(UF)は膜のサイズ排除を利用した分離法です。

理論上は、高分子であるキサンタンガムを保持しつつエンドトキシンを除去できると考えられます。しかし、エンドトキシンは凝集により数百kDa〜1 MDa規模の粒径をとることがあり、キサンタンガムの分子サイズと重なるため、膜分離のみでの完全除去は困難です。他にも、以下の問題があります。

 

  • 高粘度による膜閉塞
    キサンタンガムが形成する高次構造により、膜表面にゲル層が形成され、著しく流速を低下させます。キサンタンガム濃度を下げることで対策できますが、製造効率の低下に繋がります。
  • せん断応力による構造変化
    高粘度溶液をろ過するために高い圧力をかけ、高速で循環させると、強力な「せん断力」が発生します。これによりキサンタンガム特有の剛直なダブルヘリックス構造が破壊され、溶液の粘性や安定性が不可逆的に変化することがあります。
  • LPSの会合体形成
    エンドトキシンは水溶液中で自己会合し、数百kDa〜1 MDaの幅でミセル状の巨大粒子を形成することがあります。これがキサンタンガムの分子サイズと重複するため、サイズ排除による分離能が低下します。
    そのため、UFは単独手法としては現実的でなく、他手法との併用が前提となります。

イオン交換樹脂法

イオン交換樹脂法は、負電荷を持つエンドトキシンをアニオン交換樹脂に吸着させる方法です。高い除去効率が期待できますが、キサンタンガム自体も陰イオン性高分子であるため、以下の問題があります。

 

  • 電荷密度と等電点の近接性
    キサンタンガムはグルクロン酸やピルビン酸基を持つ陰イオン性多糖です。エンドトキシンとキサンタンガムはどちらも負の電荷を帯びており、等電点や電荷密度が近接しているため、イオン交換による選択的な分離は困難です。
  • 歩留まり低下
    キサンタンガムがイオン交換樹脂と強く結合してしまい、収率(歩留まり)が低下します。これを防ぐために塩濃度を上げると、イオン交換樹脂によるエンドトキシンの吸着力まで弱まってしまいます。
  • ろ過性の低下
    キサンタンガム自体が高粘度溶液のため、イオン交換樹脂カラム内での圧力損失(圧損)を発生させ、イオン交換樹脂の物理的破壊を引き起こす原因となります。

 

膜アブソーバーなどの改良手法も検討されていますが、樹脂・膜コストが高く、大規模処理には経済的制約があります。そのため本手法は、小スケールや最終仕上げ工程向けと位置づけられます。

非イオン界面活性剤を用いた相分離法

非イオン界面活性剤による相分離法(クラウドポイント抽出)は、エンドトキシンの疎水性を利用した強力な除去手法です。

固体吸着剤を併用することで、4ログ(99.99%)以上のエンドトキシン低減が報告されていますが、工業規模では以下の課題があります。

 

  • 残留界面活性剤の完全除去
    界面活性剤自体が不純物となるため、最終製品からの完全な除去が必須です。しかし、キサンタンガムの高粘性マトリックス中から微量の界面活性剤を分離・洗浄することは非常に難しく、その残留分析および安全性立証にコストを要します。
  • 温度制御の不均一性とバラツキ
    クラウドポイント抽出には厳密な温度管理が必要ですが、大容量バッチかつ高粘度な溶液条件下では、槽内全体の温度を均一に制御することが難しく、エンドトキシン除去率のロット間格差が生じやすくなります。
  • 物理的分離の困難
    キサンタンガムが形成する網目構造が界面活性剤のミセル凝集を妨げる可能性があります。固体吸着剤を併用する場合、高粘度スラリーのろ過は難しく、プロセス全体の収率を低下させます。
  • 連続生産への適合性
    相分離には長時間の静置や段階的な温度操作が必要であり、生産性を重視する工業的な連続生産ラインへの組み込みには不向きです。

 

 

このため、高い効果が期待できる一方で、慎重なプロセス設計と規制対応が不可欠です。

吸着法(活性炭)

エンドトキシンの毒性部分であるリピドAは脂質から成り、疎水性を有しています。活性炭は疎水性物質に対する吸着力が強いため、キサンタンガム溶液を活性炭に通すことで、エンドトキシンの脂質部分を吸着・除去することが可能です。

 

一方で、キサンタンガム自体も活性炭に吸着されやすく、分子量が大きく高粘度であることから、収率(歩留まり)が低下する傾向があります。また、活性炭のエンドトキシンに対する吸着は非特異的であり、吸着容量も大きくないため、エンドトキシン含有量が高い場合には十分な処理が困難であるという課題があります。

吸着法(ポリミキシンB修飾樹脂)

「ポリミキシンB」は、エンドトキシンのリピドA部分と特異的に結合する性質を有しています。このポリミキシンBを固定化したビーズや膜にキサンタンガム溶液を通すと、条件によって、キサンタンガム自体は吸着されず、エンドトキシンを選択的に吸着させることが可能です。

ただし、キサンタンガムは高分子かつ高粘度であるため、操作条件によっては非特異的な捕捉が生じる可能性があります。また、ポリミキシンBは非常に高価であることから、実験室レベルや高付加価値な用途に使用が限定されます。

キサンタンガム精製手法の比較と限界 

手法 原理 技術課題
限外ろ過 サイズ排除 高粘度による膜閉塞
イオン交換 静電相互作用 負電荷重複による吸着・収率低下
活性炭吸着 疎水性相互作用 残留成分の毒性リスクとキサンタンガム物性への影響

ナガセケムテックスの低エンドトキシンキサンタンガム

ナガセケムテックスでは、ポリミキシンBを使用することなく、エンドトキシンを選択的に吸着できる独自のエンドトキシン吸着材を設計しました。

キサンタンガムの低エンドトキシン管理は技術的難易度が極めて高く、世界でも供給可能なメーカーは限定されています。従来法では困難であったキサンタンガムの低エンドトキシン管理を、ナガセケムテックスは、本吸着材を用いて低エンドトキシンキサンタンガム「Arcofeliz® XA-100」を開発しました。

微生物由来であるキサンタンガムは、医薬品グレードでも数千〜数百万EU/g単位のエンドトキシンが含まれることが珍しくありません。これに対し、ナガセケムテックスのArcofeliz® XA-100は、エンドトキシン含有量 ≦100 EU/gを達成しています。

グレード・メーカー エンドトキシン値
ナガセケムテックス ≦100 EU/g
一般的な医薬品グレード 数万 ~ 数百万 EU/g

低エンドトキシンキサンタンガムについてご興味のある方は、まずはお気軽にご相談ください。


【参考文献】

Erridge, C., et al. (2007). The American Journal of Clinical Nutrition, 86(5), 1286–1292.
Cani, P. D., et al. (2007). Diabetes, 56(7), 1761–1772.Cosmetic Ingredient Review Expert Panel. (2012). International Journal of Toxicology, 31(5_suppl), 176S–203S.
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Csako, G., et al. (1983). Applied and Environmental Microbiology, 45(4), 1342–1350.
Magalhães, P. O., et al. (2007). Journal of Pharmacy & Pharmaceutical Sciences, 10(3), 388-404.

  • 【薬機法(旧薬事法)に関する重要なお知らせ】
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  • 本技術の位置づけ:本記事で紹介している製品および技術は、医薬品や医療機器の製造プロセス、または研究開発において使用される「原料」や「処理技術」です。最終製品(医薬品等)の有効性や安全性を保証するものではありません。
  • Arcofeliz®について:Arcofeliz®シリーズは、医薬品添加剤や医療機器原材料としての使用を想定した「素材」です。これ単体が疾病の診断、治療、予防を目的とした医薬品ではありません。 
  • 品質規格:「低エンドトキシン」等の表現は、各製品の規格値に基づく物理化学的な特性を示したものであり、臨床的な効果を標榜するものではありません。
Topics:
  • ケーススタディ
  • ヘルスケア・医薬品

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