case study

プルランのエンドトキシン対策

低エンドトキシン化の技術的課題限界と解決法

July 31, 2026

プルランは、生体適合性や成膜性に優れた多糖類として、ドラッグデリバリーシステム(DDS)や再生医療、創傷被覆材向け素材として最先端のバイオマテリアル領域へと応用が進んでいます。プルランの品質で問題になりやすいのは副産物や色素ですが、それ以上に「エンドトキシン」の混入が課題となる場合もあります。

本記事では、プルランの基本特性から、医療・バイオ分野の各用途で求められるエンドトキシン管理の基準、そして研究の再現性を担保するために不可欠な「低エンドトキシン性」の重要性について、技術的観点から解説します。

Pullulan Powder

プルランとは

プルランは、Aureobasidium pullulans という酵母様真菌が産生する水溶性の多糖類で、主にグルコースが連なった天然由来の高分子材料です。構造的には、グルコース3分子からなるマルトトリオース単位α(1→6)グリコシド結合で連結した構造を持ち、各単位の内部ではグルコースが α(1→4)、α(1→4) で結合しています。 このような特徴的な結合様式により、プルランは高い成膜性、透明性、酸素バリア性を示します。

What Is Pullulan?

また、無味無臭で比較的安全性が高く、水に溶けやすい特性を持つことから、食品、医薬品、化粧品など幅広い分野で利用されています。近年では、フィルム・カプセル用途に加え、生体適合性や化学修飾のしやすさを活かし、ドラッグデリバリー材料、創傷被覆材、再生医療向け材料などのバイオ・医療分野でも注目が高まっています。

プルランの主な用途と求められる特性

プルランは、食品、医薬品、化粧品、バイオ・医療材料など幅広い分野で利用が検討されています。ただし、すべての用途で同じレベルのエンドトキシン管理が求められるわけではありません。

特に、体内投与や注射製剤向け材料、再生医療・バイオ評価材料、創傷被覆・皮膚接触材料などでは、プルランに含まれる微量のエンドトキシンが、発熱、炎症反応、細胞応答の変化、評価結果のばらつきにつながる可能性があります。そのため、これらの用途では、プルラン本来の水溶性、成膜性、生体適合性に加えて、低エンドトキシン性が重要な品質要件となります。

分野 主な用途 主な要求特性
体内投与・注射製剤向け材料 ドラッグデリバリーシステム(DDS)、ハイドロゲル製剤向け素材 低エンドトキシン性、無菌性、生体適合性
再生医療・バイオ評価材料 バイオマテリアル評価用素材、再生医療材料の研究開発、細胞培養材料 低エンドトキシン性、低細胞毒性、滅菌処理後の安定性
創傷被覆・皮膚接触材料 創傷被覆材向け素材、医療用コーティング材料 低エンドトキシン性、低刺激性、吸水・保湿性、密着性
経口医薬品・化粧品 カプセル・錠剤コーティング、スキンケア、メイクアップ 安全性、水溶性、皮膜形成性、無味無臭、処方安定性
食品・包装 可食フィルム、品質保持包装 食品安全性、透明性、フィルム形成性、酸素バリア性

体内投与・注射製剤向け材料

体内投与や注射製剤を想定した材料では、エンドトキシン管理の重要度が最も高くなります。プルランは、ドラッグデリバリーシステム(DDS)やハイドロゲル製剤向け素材として検討されることがあります。これらの用途では材料が体内環境に直接関与するため、微量のエンドトキシンでも発熱や炎症反応を引き起こすリスクがあります。

そのため、体内投与・注射製剤向け材料の研究開発では、低エンドトキシン性、無菌性、生体適合性が特に重要です。一般的な注射用途では、体重当たりのエンドトキシン許容量で5.0 EU/kg、髄腔内投与では 0.2 EU/kg が限度であり、厳しい管理が必要です。

特に注意したいのは、滅菌処理によって生きた微生物を除去できても、菌体成分であるエンドトキシンが残る場合がある点です。そのため、体内投与向け材料では、無菌性とは別にエンドトキシン値を管理する必要があります。

再生医療・バイオ評価材料

再生医療材料や細胞培養材料をはじめとしたバイオマテリアル評価用素材で重視されるのが、細胞応答に与える影響です。

エンドトキシンは、単球やマクロファージ、樹状細胞などの免疫細胞と反応し、TNF-α、IL-6、IL-1β などの炎症性サイトカインを産生します。プルランにごく微量のエンドトキシンが含まれている場合、評価材料の細胞適合性ではなく、混入エンドトキシンによる免疫刺激が現れてしまう可能性があります。

たとえば、ヒト末梢血由来の単球では、0.005 ng/mL という非常に低いエンドトキシン濃度でも、TNF-αやIL-6の産生が報告されています。ごく微量の混入であっても単球を活性化し、免疫機能の評価結果に誤った解釈を生じさせる可能性があります。このように、細胞培養材料、再生医療材料、創傷被覆材、バイオマテリアル評価に用いる材料には、低エンドトキシン性が求められます。

創傷被覆・皮膚接触材料

創傷被覆材や医療用コーティング材料では、プルランの成膜性、保湿性、密着性が活かされます。プルランは水溶性で透明な膜を形成しやすいため、創傷部位を覆うフィルム状材料や、皮膚・組織表面に接触するコーティング材料としての利用が検討されています。

この用途では、材料が創傷部位や皮膚に直接接触するため、低刺激性、吸水・保湿性、密着性が重視されます。さらに、創傷部位では皮膚のバリア機能が低下しているため、エンドトキシンが局所的な炎症や刺激に関与する可能性があります。用途や接触部位に応じて低エンドトキシン性材料の使用が望まれます。

低エンドトキシンプルランとは

低エンドトキシンプルランとは、製造工程や精製工程に由来して混入しうるエンドトキシンを低く管理したプルランです。プルラン自体は、酵母様真菌の発酵で産生する水溶性多糖であり、製造に使用する真菌に由来するエンドトキシンを含みません。

一方で、発酵、精製、乾燥、充填、再溶解などの工程において、原料水や設備、環境中のグラム陰性菌に由来するエンドトキシンが混入する可能性があります。特にバイオ・医療用途では、プルラン本来の水溶性、成膜性、透明性、接着性などの機能を維持しながら、エンドトキシン値を低く抑えることが重要になります。

プルランに含まれるエンドトキシン

プルランに含まれる可能性があるエンドトキシンは、プルラン分子の一部ではなく、製造工程中に混入する外来性の不純物です。

プルランは、グルコースが連なった中性多糖です。一方、エンドトキシンは、主にグラム陰性菌の外膜に存在するLPS、すなわちリポ多糖を指します。LPSは、脂肪酸を持つ Lipid A、コア多糖、O抗原から構成される両親媒性分子であり、このうち Lipid A が強い免疫性刺激の中心となります。

Pullulan Endotoxin

つまり、プルランとエンドトキシンはいずれも糖鎖構造を含みますが、化学構造、由来、生体作用は大きく異なります。

プルランでエンドトキシン管理が難しい理由

プルランの低エンドトキシン化では、低エンドトキシン性とプルラン本来の物性維持の両立が欠かせません。

エンドトキシンは、親水性の糖鎖部分と疎水性の Lipid A を持つため、水中で容易にミセル(分子量数十万〜数百万Da以上)を形成しやすい性質があります。そのため、単純な分子量差だけで分離することは困難です。

Pullulan Structures

さらに、プルランは水溶性の高分子多糖であり、分子量や粘度、成膜性、透明性などが用途上の重要な機能になります。強アルカリ、酸化剤、過度な加熱などの処理は、エンドトキシンを低減できる可能性がある一方で、プルランのα-(1→4) およびα-(1→6)グリコシド結合の無差別な切断(主鎖分解)を誘発します。これにより、プルランの分子量低下、粘度変化、膜物性の低下を招くおそれがあります。

したがって、製造工程での混入を最小化しつつ、プルランの構造を維持しながらエンドトキシン低減を行う精密なプロセス制御が必要になります。

プルランを低エンドトキシン化する方法

プルラン特有の課題は、発酵由来の水溶性高分子であるため、製造後の精製分離が難しい点にあります。酵母発酵で合成したプルランを含む発酵液から菌体を除去した後、他の副生成物を取り除きます。

特に、メラニン、ポリリンゴ酸などの副生成物は、発酵液中でプルランと同じ水相に存在し、分離挙動が重なりやすい成分です。さらに、工程中で混入したエンドトキシンは、負電荷や疎水性部位を持つ高分子集合体として挙動するため、単純なろ過や沈殿だけでは十分に除去できない場合があります。このため、高純度化と低エンドトキシン化を両立するには、複数の手法を組み合わせた精製工程が必要になります。

加熱・アルカリ・酸化による不活化

エンドトキシンは以下の処理によって構造を破壊・変性させることができます。

エンドトキシン不活化処理 エンドトキシン不活化メカニズム 代表的な処理
乾熱処理 多糖部分のグリコシド結合切断、LipidAのエステル結合・リン酸基の脱離 250℃、30分以上
強アルカリ処理 LipidAのエステル結合の加水分解 0.1N NaOH含有95%エタノール30分以上保持
酸化処理 脂肪酸・多糖の酸化・開裂 オゾン/過酸化水素

これらの処理は、装置や配管、周辺部材などの洗浄には有効です。

ただし、プルランを含む粉体・溶液の場合、プルランに含まれる糖グリコシド結合の切断が生じます。その結果、分子量や粘度が低下し、透明性や塗工性などの材料特性が変化するリスクがあります。このため、プルランを処理する製造装置の前処理として活用するのが最適です。

吸着カラムによる選択除去

プルランのような水溶性高分子では、含有水溶液のエンドトキシンを選択的に吸着除去する方法も有力です。例えば、エンドトキシンはリン酸基に由来する負電荷を持つため、電荷相互作用を利用した吸着剤によって分離できます。

正電荷を持つポリリジン系の吸着カラムは、エンドトキシンの負電荷と相互作用して選択的に吸着します。プルランは非イオン性の多糖であるため、プルランの構造を大きく損なわずにエンドトキシンを選択的に低減できる可能性があります。

一方で、高分子であるプルラン溶液は高粘度になりやすく、エンドトキシンそのものの除去が難しくなるほか、吸着カラムの圧損や閉塞が課題になります。また、担体によっては、プルラン自体や共存するタンパク質、核酸、他の多糖も一部吸着し、収率低下や不純物混入につながる可能性があります。

粒子状吸着剤による除去

高粘度のプルラン溶液では、活性炭のような粒子状吸着剤を溶液中に直接混合し、遠心分離やろ過で吸着剤を除去する方法が有効です。吸着剤をプルラン溶液中で攪拌するため、高粘度液体でも溶液に対して吸着剤を作用させやすくなります。

一方で、攪拌条件、接触時間、吸着剤量、溶液粘度などのプロセス管理が複雑になりやすいというデメリットもあります。条件管理が不足した場合、吸着剤の凝集にプルランが巻き込まれて、収率が低下します。また、プルラン溶液との確実な分離が求められるため、残留粒子の管理も必要です。

このため、粗精製後のプルラン溶液からエンドトキシン量を低減する中間処理に向く手法です。

膜分離による清澄化

膜分離では、プルラン溶液中に残る菌体片、微粒子、凝集物、吸着剤残渣、低分子不純物を除去し、溶液を清澄化することが可能です。限外ろ過により、プルランのような高分子成分を保持しながら、培地由来の塩類、低分子副生成物、分解物などを除去します。

ただし、エンドトキシンがミセル状・会合体となってしまうと、高分子成分と同様の挙動を示し、プルラン側に残留するリスクがあります。限外ろ過の際に、pH、塩濃度を制御したり、界面活性剤を添加したりすることで、エンドトキシン除去効率を高めます。ただし、添加剤を用いる場合、残留性や細胞評価への影響も確認する必要があります。

ナガセケムテックスの低エンドトキシンプルラン

ナガセケムテックスでは、独自のエンドトキシン除去材にて精製した低エンドトキシンプルランを開発いたしました。Arcofeliz® PU-10 は、プルランが持つ水溶性、成膜性、接着性、塗工性などの特長を活かしながら、エンドトキシン値を低く管理したグレードです。細胞評価用材料、バイオマテリアル研究、創傷被覆材・医療材料関連の研究開発用途など、エンドトキシン由来の炎症応答や評価ばらつきを抑えたい用途でご検討いただけます。

微生物由来であるプルランは、日本薬局方グレードでも数千〜数百万EU/g単位のエンドトキシンが含まれることが珍しくありません。これに対し、ナガセケムテックスのArcofeliz® PU-10は、エンドトキシン含有量 ≦10 EU/gを達成しています。

グレード・メーカーエンドトキシン値
ナガセケムテックス≦10 EU/g
日本薬局方グレード数万 ~ 数百万 EU/g

低エンドトキシンプルランについてご興味のある方は、まずはお気軽にご相談ください。

【参考文献】

Marta O. Teixeira, et al. (2023). Journal of Drug Delivery Science and Technology, 89, 105066.
U.S. Food and Drug Administration. (1985). Bacterial Endotoxins/Pyrogens. Inspection Technical Guide No. 40.
Frank Liu (2025). Toxicology Letters, 412, 223-233.
Chaiwut, R., et al. (2022). BMC Research Notes, 15, 42.
Jeffrey R., et al. (2023) Skin Pharmacol Physiol. 36(4), 174-185.
Stankovic, I. (2005). Pullulan: Chemical and Technical Assessment. 65th Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives (JECFA).
Oshima, R., et al. (2025). Scientific Reports, 15, 20056.

  • 【薬機法(旧薬事法)に関する重要なお知らせ】
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  • 本技術の位置づけ:本記事で紹介している製品および技術は、医薬品や医療機器の製造プロセス、または研究開発において使用される「原料」や「処理技術」です。最終製品(医薬品等)の有効性や安全性を保証するものではありません。
  • Arcofeliz®について:Arcofeliz®シリーズは、医薬品添加剤や医療機器原材料としての使用を想定した「素材」です。これ単体が疾病の診断、治療、予防を目的とした医薬品ではありません。 
  • 品質規格:「低エンドトキシン」等の表現は、各製品の規格値に基づく物理化学的な特性を示したものであり、臨床的な効果を標榜するものではありません。

 

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  • ヘルスケア・医薬品

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