case study

アルギン酸リアーゼのエンドトキシン対策

低エンドトキシン化の技術的課題限界と解決法

July 31, 2026

アルギン酸リアーゼは、アルギン酸を低分子化する酵素として、バイオフィルム制御、細胞回収、医療材料評価などのバイオメディカル領域で活用が検討されています。アルギン酸リアーゼの品質では、酵素活性や基質特異性、安定性が重要ですが、微生物発酵により製造される酵素であるため、エンドトキシンの混入が課題となる場合もあります。

本記事では、アルギン酸リアーゼとエンドトキシンの関係、低エンドトキシン化の対策について解説します。

Powder

アルギン酸リアーゼとは

アルギン酸リアーゼは、アルギン酸を低分子化する酵素です。高分子アルギン酸の糖鎖を切断することで、溶液の粘度低下、ゲルネットワークの崩壊、アルギン酸マトリックスの分解を引き起こします。

アルギン酸リアーゼの作用対象

アルギン酸は、褐藻類、海洋細菌、一部の細菌バイオフィルムなどに存在する直鎖状の多糖です。 β-D-マンヌロン酸(M) と α-L-グルロン酸(G) という2種類のウロン酸から構成され、1→4グリコシド結合で連なっています。M/G比や分子量、配列の違いにより、溶液の粘性やゲル化性が変化します。

What Is Alginate Lyase?

アルギン酸リアーゼは、このアルギン酸鎖中の 1→4 O-グリコシド結合を標的とし、β-脱離によって開裂してアルギン酸を低分子化します。この反応は加水分解ではないため、分解生成物は非還元末端に不飽和ウロン酸構造(Δ構造)をもつアルギン酸オリゴ糖です。

作用対象となる結合は、主に次のようなものがあります。

  • M-M 結合:マンヌロン酸同士の結合
  • G-G 結合:グルロン酸同士の結合
  • M-G / G-M 結合:マンヌロン酸とグルロン酸が混在する結合

酵素によって基質特異性が異なるため、目的に応じた酵素タイプを使用します。

アルギン酸リアーゼの代表的構造

アルギン酸リアーゼの代表ファミリーとして、PL7、PL5などが知られています。

Representative Structures of Alginate Lyase

PL7型では、β-jelly roll/β-sandwichと呼ばれるβシート主体の構造を特徴とし、アルギン酸鎖を結合する溝状の活性部位を示しています。基質特異性や分解生成物は活性部位周辺のループ構造に依存するため、同じPL7ファミリーでも生成するアルギン酸オリゴ糖の重合度分布が異なる場合があります。

PL5型はαヘリックス主体のバレル構造を特徴とします。活性部位ではpolyM特異性を示すエンド型酵素が多いとされますが、実際の基質特性は酵素ごとに異なります。

アルギン酸リアーゼの利用分野

アルギン酸リアーゼは、細胞や医療材料を扱うバイオメディカル領域の研究開発で活用が検討されています。ここでは、代表的な利用分野を3つ紹介します。

感染症・バイオフィルム研究

アルギン酸リアーゼは、感染症・バイオフィルムの研究に用いられます。特に重要な用途の一つが、アルギン酸を含むバイオフィルムの分解です。

Infectious Disease and Biofilm Research

たとえば、緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa は、慢性感染ではアルギン酸を過剰に産生して、アルギン酸を多く含む細胞外多糖マトリックスを形成することが知られています。細菌が医療機器、創傷部位、粘膜などの表面に付着し、自ら産生する細胞外の高分子物質などに包まれた集合体は、バイオフィルムと呼ばれます。

バイオフィルムは、以下のような性質を示します。

  • 付着した細菌を表面に固定する
  • 抗菌薬や免疫応答から細菌を保護する
  • 親水性/粘弾性を示し、細菌の定着や生存を助ける
  • 慢性感染や再発性汚染の原因となる場合がある

アルギン酸リアーゼは、このマトリックスの重要成分であるアルギン酸糖鎖の1→4グリコシド結合を切断し、高分子アルギン酸を低分子化します。これにより、バイオフィルムのネットワーク構造が弱まり、抗菌薬や免疫細胞が細菌へ到達しやすくなることが期待できます。

このため、アルギン酸リアーゼは、医療機器・創傷・感染症の研究開発において、バイオフィルム制御に関わる酵素試薬として注目されています。

再生医療・組織工学の研究開発

再生医療、細胞治療、組織工学でもアルギン酸リアーゼが活用できます。代表的な活用場面は、アルギン酸ゲルで培養した細胞の回収時です。

三次元細胞培養の一手法として、アルギン酸ハイドロゲルを細胞包埋マトリックスとして用いる研究が行われています。この方法では、解析や移植などのために細胞をゲルから取り出す必要があります。

Regenerative Medicine and Tissue Engineering Research

アルギン酸はカルボキシル基を多数含むアニオン性多糖のため、カルシウムイオン等の多価カチオンを介して糖鎖間を架橋します。この架橋構造によってアルギン酸は水を多く含むヒドロゲルを形成しますが、このままの形態では、ゲル内部の細胞を効率よく回収することが困難です。

そこで、クエン酸ナトリウムなどのキレート剤処理でカルシウムイオンを引き抜き、アルギン酸を脱架橋させる方法も検討されています。しかし、キレート剤処理ではカルシウムイオンによる架橋は解消されるものの、アルギン酸の糖鎖そのものは切断されません。そのため、溶液の粘性が残りやすく、細胞にアルギン酸が絡みつき、分離・洗浄しにくいという課題があります。

アルギン酸リアーゼは、アルギン酸のグリコシド結合に作用し、温和な条件で高分子アルギン酸を低分子化します。これにより、溶液の粘性が低下するため、細胞への負荷を抑えながら、アルギン酸ゲルから細胞を取り出しやすくなります。

医療材料・創傷被覆材の研究開発

アルギン酸リアーゼは、医療材料や創傷被覆材の研究開発でも利用が検討されています。

医療材料分野では、アルギン酸はドラッグデリバリーシステム(DDS)向けの薬物担体としても利用されています。アルギン酸ハイドロゲルビーズやゲル製剤は、薬物を内部に封入し、ゲルの膨潤・分解により徐放するための材料として検討されています。

アルギン酸リアーゼは、こうした薬物担体のアルギン酸マトリックスを選択的に分解できるため、ゲル崩壊挙動の評価に利用できます。

また、創傷部位に塗布されたアルギン酸は、滲出液を吸収しながら吸水・ゲル化し、創傷面に柔らかいゲル層を形成します。このゲル層は、創傷面の乾燥を防ぎつつ過剰な滲出液を保持するため、湿潤環境の維持に寄与します。湿潤環境では、角化細胞や線維芽細胞が移動しやすくなり、肉芽形成や再上皮化などの組織修復の促進に関与している可能性があります。

アルギン酸リアーゼは、これらのアルギン酸系材料におけるゲル崩壊挙動や残渣除去性、洗浄性、薬物放出後のマトリックス変化を評価する酵素試薬として利用できます。

低エンドトキシンアルギン酸リアーゼとは

低エンドトキシンアルギン酸リアーゼとは、アルギン酸分解活性を維持しながら、酵素製品中に含まれるエンドトキシン量を低減したアルギン酸リアーゼです。

エンドトキシンは微量でも免疫細胞を刺激するため、バイオメディカル領域では使用材料の低エンドトキシン化が求められています。

アルギン酸リアーゼに含まれるエンドトキシン

アルギン酸リアーゼは、複雑な3次元立体構造を持つ高分子タンパク質であり、一般的に微生物発酵(組換え発酵系など)によって製造されますそのため、製造に使用する菌体や培養液、精製工程に由来するエンドトキシンが、酵素製品中に混入する可能性があります。

アルギン酸リアーゼにエンドトキシンが含まれる場合、酵素のアルギン酸分解活性とは別に、細胞や免疫系を刺激する可能性があります。特にマクロファージや単球などの免疫細胞では、TLR4/NF-κB経路を介して炎症性サイトカイン産生が誘導される場合があります。

これらが介在すると、各研究分野で以下のような深刻なシグナル交絡を引き起こします。

  • 感染症/バイオフィルム研究: バイオフィルム由来の純粋な炎症反応と、添加した酵素試薬由来のエンドトキシンによる影響を区別できなくなる。
  • 再生医療/組織工学: ゲルから回収した細胞の遺伝子発現、分化能、あるいは表面マーカーのプロファイルに変容を与え、データの再現性に影響を及ぼす。
  • 医療材料/創傷被覆材評価: 材料自体の細胞適合性試験において、不純物に起因する炎症性や細胞毒性が過大評価(偽陽性)されるおそれがある。

そのため、精密なバイオメディカル評価においては、酵素活性の高さと同等以上に、エンドトキシン含有量の低さが重要な品質要件となります。

アルギン酸リアーゼで低エンドトキシン化が難しい理由

アルギン酸リアーゼの低エンドトキシン化が難しい理由は、エンドトキシンを除去しながら、酵素としての構造や活性を維持する必要があるためです。

組換えタンパク質では、非イオン性界面活性剤を用いた相分離処理や、担体上での洗浄処理などによる低エンドトキシン化が報告されています。しかし、タンパク質の種類や精製条件によって、エンドトキシンの除去効率が大きく変動します。

一方で、アルギン酸リアーゼは熱や化学的変性に対してデリケートな酵素タンパク質です。多糖類等で用いられるような強アルカリ処理や高温乾熱処理といった過酷なエンドトキシン不活化を適用すると、活性部位周辺のループ構造やバレル構造が容易に変性・失活し、アルギン酸分解活性が著しく低下してしまいます。

アルギン酸リアーゼを低エンドトキシン化する方法

アルギン酸リアーゼを低エンドトキシン化するには、製造工程全体でエンドトキシンの混入を抑え、さらに精製工程で残存エンドトキシンを除去する必要があります。

一般的なE. coli などのグラム陰性菌を宿主としてアルギン酸リアーゼを合成する場合、菌体外膜に存在するエンドトキシン混入リスクが高くなります。一方、外膜を持たないBacillus 属などのグラム陽性菌を宿主にすると、低エンドトキシン化の観点では有利となります。ただし、グラム陽性菌を用いた場合でも、原料や製造環境からのエンドトキシン混入は起こり得るため、宿主選定だけでなく工程管理も必要です。

精製工程では、目的酵素であるアルギン酸リアーゼとエンドトキシンの物性差を利用して分離します。具体的には、エンドトキシン吸着材処理やクロマトグラフィー処理に加え、限外ろ過や脱塩カラムによる低分子不純物除去を組み合わせます。特にエンドトキシン吸着材は、酵素溶液中に残存するエンドトキシンを低減する方法として有用です。

一方で、過度なカラム精製や強すぎる洗浄条件は、酵素が変性・凝集し、アルギン酸分解活性が低下するおそれがあります。そのため、pH、塩濃度、タンパク質濃度、処理時間、処理温度、吸着材の種類などの最適化が欠かせません。また精製後には、エンドトキシン含有量だけでなく、アルギン酸分解活性、タンパク質純度、保存安定性の確認も行います。

ナガセケムテックスの低エンドトキシンアルギン酸リアーゼ

ナガセケムテックスでは、独自技術で開発したエンドトキシン除去材にて精製した低エンドトキシンアルギン酸リアーゼを開発しました。

Arcofeliz® EN-ALGSは、アルギン酸を分解し、低分子化・低粘度化させる酵素機能を有しながら、エンドトキシン値を低く管理したグレードです。

細胞や医療材料に接触するバイオメディカル領域において、エンドトキシン由来の炎症応答や評価ばらつきを抑えたい研究開発用途でご検討いただけます。

グレード・メーカーエンドトキシン値
ナガセケムテックス≤10,000 EU/g
食品添加物グレード数万 ~ 数十万 EU/g

低エンドトキシンアルギン酸リアーゼについてご相談がございましたら、まずはお気軽にお問い合わせください。

【参考文献】

Dobruchowska, J. M., et al. (2022). Front. Plant Sci., 13, 981602.
Kundukad, B., et al. (2025). npj Biofilms Microbiomes, 11, 98.
Hatch, R. A., et al. (1998). Antimicrob. Agents Chemother., 42(4), 974–977.
Małysz-Cymborska, I., et al. (2025). Int. J. Mol. Sci., 26(10), 4574.
Wu, Z., et al. (2016). Sci. Rep., 6, 24474.
Pleszczyńska, M., et al. (2023). Int. J. Mol. Sci., 24(5), 4740.
Sampath, V. (2018). Agric. Nat. Resour., 52(2), 115–120.

  • 【薬機法(旧薬事法)に関する重要なお知らせ】
  •  
  • 本技術の位置づけ:本記事で紹介している製品および技術は、医薬品や医療機器の製造プロセス、または研究開発において使用される「原料」や「処理技術」です。最終製品(医薬品等)の有効性や安全性を保証するものではありません。
  • Arcofeliz®について:Arcofeliz®シリーズは、医薬品添加剤や医療機器原材料としての使用を想定した「素材」です。これ単体が疾病の診断、治療、予防を目的とした医薬品ではありません。
  • 品質規格: 「低エンドトキシン」等の表現は、各製品の規格値に基づく物理化学的な特性を示したものであり、臨床的な効果を標榜するものではありません。

 

Topics:
  • ケーススタディ
  • ヘルスケア・医薬品

お気軽に
ご連絡ください。

右記のフォームにお問い合わせ内容をご入力いただき、個人情報の取り扱いに同意の上「送信する」ボタンを押してください。

【メンテナンスのお知らせ】

下記日時はシステムメンテナンスのため、お問い合わせフォームを一時的に停止しております。

7/22(水) 10:00AM ~ 2:00PM (JST)

ご不便をおかけしますが、詳細や緊急時のご連絡先は こちらのお知らせ をご確認ください。